2010.06.27

不定期連載第2回目の今回は「絞り」です。
写真撮影においては、焦点距離とともに撮影意図を反映させる一つの要因です。

サルでもわかって欲しいカメラ原理講座 目次

絞りを「開ける」とボケが大きくなる、開放絞り値が明るいレンズ、絞ると画質が良くなるが絞りすぎると逆に悪くなることもある、とは一体どういうことなのでしょうか。

レンズの絞りとは

何はなくともまず最初にレンズの絞り値(F値)のお話をしないといけません。



F値は、レンズの焦点距離とレンズの有効口径の比によって「相対的に」決まっています。焦点距離が同じレンズでは、有効口径が大きくなればF値が小さくなり、いわゆる「明るい」レンズとなります。逆に有効口径が小さくなるとF値が小さくなり「暗い」レンズとなります。明るいレンズにでは、レンズの口径を大きくとれるように大口径のガラスレンズを使っています。ですので一般的に、ガラスの量が多くなるため重くかつ材料費・工作費の分だけ高価になります。明るいレンズに高級・高価なものが多いのはこういう理由からです。

同じ口径のレンズでも、レンズの中もしくは後ろに穴の空いた板「絞り」をいれることによって、有効口径を変えることができます。その穴の直径をいろいろ変えることができるのが、いわゆる「レンズの絞り」と呼ばれるものです。絞りとはその名の通り光を「絞る」もの、つまり光の量を増減させるものです。そのため、大きさの変えられる穴(絞り板ß)をレンズの中に入れることによって、レンズから出てくる光の量を変化させることができるようになります。


レンズの中もしくは後ろにこの絞り板が入ることによって、撮像面(フィルムもしくはCCD)に当たる光の量を変化させることができるわけです。一般的に穴の直径を大きくすることを「絞りを開ける」、小さくすることを「絞る」と言い、それぞれF値を大きくする、小さくすることに対応します。

錯乱円と被写界深度

写真撮影では、ピントの合う範囲を絞りのコントロールによって変化させ、ぼかしなどの撮影表現をしますがこれは一体どういう原理でしょうか。それには、撮像面(フィルム、CCD)の分解能に相当する「錯乱円」の考え方を導入します。


レンズの焦点距離の式を考えると、レンズからの距離aの物体に対し、本当にピントの合う面はレンズからの距離bに張る無限に薄い平面だけです。しかしながら、撮像素子を構成する一つの素子は有限のある大きさを持っているため、それ以上小さいものは分解・解像することができません。フィルムの場合は感色粒子1ヶ程度、CCD・CMOSの場合は光検出器(フォトダイオード)1ヶ、つまり1画素にあたります。その中で結像したものは、現像プロセスでそれ以上の分解・解像ができません。したがって、その中に入ってくる光は、すべて同じ位置情報をもつとみなすことができます。これが「錯乱円」の概念です。レンズは通常円形ですので円として結像されます。


フィルム時代、錯乱円は「プリントして印刷物としたときに、ある一定の距離から目で判別できなくなる最小単位」とされていました。フィルムではプリントするのが一般的でしたので、このような定義が一般的でした。例えば、35mmフィルムでの最小錯乱円は直径30μm程度となります。しかしながらデジタル時代の昨今では、ディスプレイ上で等倍鑑賞というのも行われるようになってきています。ですので、そのような場合は1画素の大きさに相当するものが錯乱円に相当します(厳密にはローパスフィルタによるぼかしとベイヤー配列による画素混合がはいるため、1画素解像は現実的ではありません。これはまた後日)。35mmフルサイズの1000万画素イメージセンサ(4000×2700画素程度)では、1画素は約9μm□程度のサイズとなるため、最小錯乱円はこのサイズと同等の9μm程度となります。これは、中判フィルムサイズに匹敵する最小錯乱円のサイズです。

したがって、錯乱円の中に入る光束はすべてピントがあっているように見えます。ですので、撮影された写真には、ある奥行範囲でピントがあっているように見えることになります。錯乱円が小さくなればピントの合う範囲が狭くなり、錯乱円が大きくなればピントの合う範囲が広くなるのです。このピントの合う範囲を「被写界深度」と言います。

一般的に、レンズに対してフィルム面の前側(赤色)と後ろ側(青色)の光束では、ピントの合う範囲が異なります。レンズの公式(焦点距離の式)を厳密に計算するとこのような結果が得られます。通常、前側の方が後ろ側に比べピントの合う範囲が狭くなります。これが前ボケと後ろボケの範囲が変わる要因です。前側の方がピントが合う範囲が狭いため、後ろボケに比べ前ボケが大きくなり、いわゆる「前ボケ表現」が可能になります。詳細な数式等は、わかりやすい図・データとしてまとめて、また後日説明する予定です。

さて、錯乱円が同じ場合、絞りが変化すると撮像面側の光束はどうなるのでしょうか。


絞りを開けた場合に比べ、絞りを絞ったときは光束が全体的に狭くなります。つまり光束の大きさが錯乱円に近くなります。これは、錯乱円が相対的に大きくなったことと同義です。したがって、被写界深度が深くなることになります。


これが絞りによって、ピントの合う範囲が変わる理由です。
撮影距離によっても被写界深度は変わります。


上図のとおり、撮影距離が近いと撮像面側の距離が比較して長くなります。つまり、見込み角が小さくなるため、錯乱円がカバーできる範囲が広くなります。つまりは被写界深度が深くなります。一方、撮影距離が長いとレンズが撮像面に近くなり、見込み角が大きくなります。奥行き方向に対して急激に光束の断面積が変化するため、錯乱円がカバーできる範囲が小さくなる、つまり被写界深度は浅くなるのです。
また、焦点距離によっても被写界深度は変化します。F値の式でも分かる通り、同じF値のときは焦点距離が長くなると有効口径は大きくなります。つまり、上記の見込み角が深くなることに相当し、相対的に被写界深度は浅くなるのです。逆に、焦点距離が短くなると有効口径が小さくなり、被写界深度は深くなります。広角レンズではピントの合う範囲が広く、望遠レンズでピントの合う範囲が狭くなるのは、このような理由です。

絞ることによる近軸光線化と回折の影響

他に絞りによって変わることはなんでしょうか。
良く言われることは

  • 絞りを絞ると画質が良くなる
  • 絞りすぎると画質が悪くなる

ということです。前者は「近軸光線化による収差の低減」、後者は「光の回折による回折光の相対的光量増加」にあたります。

絞りを絞ることによって光束は下図のように変化します。


つまり、絞りを絞るほど光はレンズの中心のみを通ることになります。軸に近い光線なので、近軸光線と呼びます。絞りを開けた場合、レンズの中央を通る光と、レンズの端を通る光では、屈折の量や通過するガラスの量が異なります。つまり、中央と端では光の変化が大きくなります。このことが「収差」を引き起こす主な原因となり、一般的に画質は収差の影響で悪くなります(収差の詳細は次回)。実は、何度も出てきている焦点距離の公式は、近軸光線でしか通用しない近似式なのです。この式から外れるため、画質が劣化するのです。一方、絞った光はレンズの中央のみを通ります。レンズの曲率変化も緩く、通過するガラスの量(長さ)の変化も小さいため、相対的に変化の小さい光が得られることになります。したがって、相対的に画質が良くなる傾向にあります。

しかしながら、絞りを絞ると昨今よく言われるようになった「回折の影響」が出てきます。実は、回折そのものは絞りを開けていても、その量は変わらず出ています。


回折とは、光の波としての性質に起因します。波は、障害物があっても回り込むという性質を持っています。池などで良く見かける、障害物があっても波が回り込んで障害物の後ろでも波紋がたつ現象です。これが回折です。光も波の一種として振舞いますが、波の間隔である波長がものすごく短いため、回折の影響は水波紋に比べ極端に小さくなりますが、それでも回折という現象は起こります。絞りがあるレンズの回折現象は、入ってきた光が絞りで回折され、本来の光の進む方向とは違う方向に光が進むという現象となります。ですので、絞り穴の大きさには本質的に左右されません。絞りの大きさは、光の波長比べ2桁以上大きいのがその理由です。


絞ることで回折の影響が出るのは、絞りを絞ることによって、通過する光の絶対量が減り、相対的に回折光の量が大きくなるためです。回折光はレンズ本来の進む光とは違う方向に進む光となりますので、結果として画質の劣化につながるという訳です。ですので、巷で良く言われる「どんなレンズでもF値を16以下にしておけば、回折の影響を回避できる」というのは、正しくもあり間違いでもあります。焦点距離と有効口径によって絞り値が定義されるため、広角レンズ(焦点距離の短いレンズ)の方が望遠レンズ(焦点距離の長いレンズ)より絞りの大きさが小さくなります。の同じ絞り値とは光量が小さくなるため、回折の影響は大きくなります。また、撮像面の大きさや錯乱円の大きさによっても左右されます。ですので、しっかり絞らずに(絞ったこともないのに) そのような話だけで、絞らないというのはレンズ特性のおいしいところを使わないというすごく勿体無い話なのです。是非とも、ご自身のレンズで回折の影響があらわれる限界を実際に目で見て見極めることを怠らないようにしてください。

今回のまとめ

  • 絞りによってピントの範囲が変わり、同じ絞り値でも撮像面の大きさで実効的なピントの範囲がかわる(錯乱円の概念)
  • 高画素のデジカメでは、錯乱円が小さくなるため、ピントに対してシビアとなる
  • 絞ると収差が抑えられ画質が良くなる(一層の近軸光線化)
  • 絞りすぎると画質が劣化するが、レンズの口径・焦点距離によって回折が現れる絞り値は異なる(回折)

次回は、レンズによる画質劣化の原因「収差」です。

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Re:サルでもわかって欲しいカメラ原理講座: #02 絞りとは

返信

マクロ撮影だと一般的には被写界深度浅くなります。
この説明だと像側の許容深度が深くなるであって、被写体側ではありません。拡大率の高い撮影では被写体側は角度が急になるので被写界深度は浅くなります。
それと同じプリントサイズなら35mmより中判フィルムサイズのほうが許容錯乱円は一般的には大きくなるのではないでしょうか?
最後に、回折限界ですが、絞りの実際の大きさに依存するわけではありません。同じ角度で出た回折光は長焦点のレンズであれば、長い距離飛ぶのでその分広くなります。これが絞りの実際の大きさに依存する回折光の出る角度と打ち消しあうので、F値だけ計算すればいいはずです。
実際のレンズ設計と人によって許容できる程度が違うので、実際に絞り込んでみて確認した方がよいというのは確かだと思いますが。

タナカ 2017年09月13日 09時24分29秒 ( 水 )

Re:サルでもわかって欲しいカメラ原理講座: #02 絞りとは

返信

上図のとおり、撮影距離が近いと撮像面側の距離が比較して長くなります。つまり、見込み角が小さくなるため、錯乱円がカバーできる範囲が広くなります。つまりは被写界深度が深くなります。一方、撮影距離が長いとレンズが撮像面に近くなり、見込み角が大きくなります。奥行き方向に対して急激に光束の断面積が変化するため、錯乱円がカバーできる範囲が小さくなる、つまり被写界深度は浅くなるのです。

と、ありますが間違ってないでしょうか?
私が間違っていたら、ごめんなさい。

ミヤケ 2012年10月30日 15時05分35秒 ( 火 )

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