2010.12.09

サルでもわかってほしいカメラ原理講座。
今回はコーヒーブレイク。
接写、つまり近くのものを大きく写すためのレンズおよびレンズアクセサリのお話です。

サルでもわかって欲しいカメラ原理講座 目次

撮影倍率と撮影距離


なにはなくとも撮影倍率のお話をしなければ話がはじまりません。撮影倍率とは、その名のとおり、撮影される倍率のことです。つまり、被写体が撮像素子上に写される倍率のことで、一般のズームレンズではと最大でも0.3倍程度のものが多いです。接写というのは、この撮影倍率を大きくするということになります。そのためにはレンズの公式に当てはめてみることが一番手っ取り早く、簡単に図解すると下図のようになります。



簡単のため、焦点距離が一定のレンズを仮定します。レンズの主点から被写体までの距離が、撮像素子・レンズ主点間距離と同じ時、被写体と撮像素子上の像の大きさが一致します。つまり、撮影倍率が1となります。被写体までの距離が撮像素子までの距離の2倍あるときは、像は被写体の1/2の大きさとなり、撮影倍率は0.5倍となります。ということで、撮影倍率を上げるために何をすればよいのかというと、被写体までの距離と撮像素子までの距離を可能な限り近づければ良い、つまり、レンズを被写体に近づければ良いということになります。
なんだ簡単じゃないか、と思う事なかれ。レンズの先端を被写体に近づけていくと、ピントが合わなくなってしまうと思います。
レンズの仕様に最短撮影距離というものがあると思いますが、これが被写体に近づける距離の限界です。この距離よりも近くなってしまうと、上述の通り、ピントが合わなくなります。
でも、工夫すると、実質上の最短撮影距離を短くすることが可能になるのです。

マクロレンズ


接写をするのに一番簡単な方法。それは、接写専用のレンズにすることです。一般に、マクロレンズと呼ばれるものが接写することもできるレンズになります。レンズの構造は、普通のレンズとほぼ同じです。




唯一、違うところは、フォーカス合わせ用のレンズの動く幅が大きいこと。つまりピントの合う範囲が広くなります。このレンズを使えば、近い被写体にもピントを合わせることが可能になります。また、ピントの合う範囲が広くなっているだけですので、通常のレンズと同じように風景なども撮ることが可能です。
売られているマクロレンズは、撮影倍率は1倍となっていることが多く、0.5倍となるハーフマクロレンズもラインナップにあるカメラもあります。つまり、被写体と同じ大きさの像を撮像素子面に結ぶことができるようになります。
専用に作られているため、画質も安定していますが、問題はその価格。安いものでも4万円台からと、おいそれと手が出るものではありませんし、レンズも増えて行く一方となります。
マクロレンズを使わないで、接写する方法はないのでしょうか。

クローズアップレンズ(接写レンズ)


マクロレンズを使わずに、一番簡単に接写をする方法。それは、クローズアップレンズ(接写レンズ)を使うことです。



これは普通のレンズの前につける、いわば「虫眼鏡」です。通常のレンズの光線を虫眼鏡を使って曲げているため、近いものにピントが合うようになります。携帯電話用の接写レンズと同じ要領です。
この接写レンズの曲率の違いにより、さまざまな撮影倍率を達成することが可能になります。お値段も1枚1万円以下ですので、お手軽に試すのにはもってこいのレンズアクセサリーです。
反面、画質は良くありません。画面の中心では良好ですが、周辺では像が流れることが多いのです。
それは、このレンズが通常のものは1枚レンズであるため、レンズの収差が大きいということに由来しています。レンズを多数使えば収差は少なくなりますが、価格が取り柄の接写レンズではそれが困難です。
また、虫眼鏡をつけることによって実質上の焦点距離が変化するため、ピントの合う範囲が狭くなることも注意しなければなりません。

中間リング(接写リング・エクステンションチューブ)


画質の劣化なく、普通のレンズを接写できるようにするためのアクセサリーもあります。
それは、中間リング(エクステンションチューブ)というものです。これは、レンズとカメラの間に挟む筒です。単なる筒です。



これはレンズ・撮像素子間の距離を長くするものです。レンズの焦点距離は変わらないため、上述のとおり、撮影倍率を上げることができるようになります。しかも、単なる筒であるので、利用しているレンズの性能そのもので撮影することが可能です。通常のレンズを使う方法では、画質の劣化が一番少ない方法です。筒の長さを長くすればするほど、撮影倍率も大きくなります。
しかしながら欠点もあります。無限遠に焦点を結ぶことができなくなるため、接写しかできません。ピントの合う範囲も狭くなるため、最終的にはカメラの前後でピント調整をする必要がでることもあります。
それ以上に、オートフォーカスが使えなくなるものもあるため、マニュアルでのピント調整が必要になることもあります。また、電子制御のレンズの場合、電子接点がついていない中間リングを用いると、ピント調整だけでなく、絞りの調整も手動で行わなければならないことがあります。その場合、マニュアル絞りリングがついていないレンズですと、最小絞り(いちばん絞られた状態)で撮影することとなり、当然ながら自動露出が働かなくなります。電子接点のついている中間リングもあり、そちらを使うのがおすすめです。
また実効的な絞り値が小さくなる、つまりレンズが「暗くなる」ことも注意が必要です。これは「露出倍数」というものが関わってくるのですが、すごく簡単に言うと、焦点距離が長くなるためF値が相対的に大きくなってしまいます。TTL測光のカメラなら何も考えなくても良いですが、マニュアルで撮影するときには注意が必要です。このあとに紹介するエクステンダーも同様に露出倍数を考える必要があります。

エクステンダー


エクステンダーも接写に使うことができます。エクステンダーとは、焦点距離を1.4倍や2倍にするものです。



先程の中間リングの中にレンズがあり、合成焦点距離として主レンズの焦点距離を実質上長くするものになります。このエクステンダーは、主レンズの最短撮影距離を変えないので、有効撮影倍率が上がるのです。近距離から無限遠まで焦点が合うため、通常のレンズと同じように扱うことが可能です。
しかしながら、レンズの焦点距離が上がるため実効的な開放絞り値が大きく、つまり、暗いレンズなってしまうことに注意が必要です。1.4倍のエクステンダーなら、1段暗くなり、2倍のエクステンダーなら2段暗くなります。例えば、開放F値2.8のレンズに1.4倍のエクステンダーを使うと、実効的な開放F値が4となります。そのため、通常のレンズよりも早いシャッタースピードが要求されるため、ブレに注意が必要です。
また、撮影倍率も等倍(1倍)まではいかないことが多いため、極端な接写は困難です。

リバースリング


もう一つ、接写をするアクセサリーがあります。それは、リバースリングと呼ばれるもので、レンズの前後を逆につけるものです。



レンズの後玉を前玉として使うことにより、撮影倍率を極めて大きくすることが可能です。一般的には等倍以上、レンズによっては2倍以上に高めることが可能です。この方法は使うレンズを選びます。長い焦点距離のレンズでは撮像素子上に像を結ぶことができなくなるため、広角〜標準域のレンズが適しています。
倍率を高めて接写するには最強の方法ですが、大変になる点も多数あります。
ひとつはピント合わせ。フォーカスリングを使うことができなくなるため、単焦点レンズを利用するときはカメラを前後させてピンとを合わせるしかできません。ズームレンズを利用すると、ズーム位置でピントを合わせることも可能ですが、基本的にはカメラの前後でピント合わせをすることになります。
また、後玉が露出するということにも注意が必要です。通常のレンズとして使う場合、後玉に傷がついてしまうと大幅な画質劣化が避けられません。つまりは、危険と隣合わせということです。
しかし、最大倍率を大幅に高めることができるため、今まで撮影できなかったものが撮影できるという醍醐味があります。

今回のまとめ

  • 接写をするにはマクロレンズが最適。ただし、比較的高価。
  • 接写レンズは虫眼鏡。お手軽ですが、画質の劣化が大きい。
  • 中間リングは接写だけなら万能な方法。ピントが合う範囲が狭くなることがタマにキズ。
  • エクステンダーでも接写が可能。ただし撮影倍率は比較的小さめ。
  • リバースリングは禁断の味。極端な接写が可能ですが後玉損傷の危険と隣り合わせ。

次回は、CCDとCMOSの違いについてのお話の予定です。

サルでもわかって欲しいカメラ原理講座 目次


関連タグ:サルでもわかって欲しいカメラ原理講座 


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Re:サルでもわかって欲しいカメラ原理講座:【コーヒーブレイク】接写するときに便利なレンズアクセサリー

返信

亀レスですが、とても分かりやすく大変勉強になりました。
このサイトに辿り着いて良かったと思っております。
お気に入り登録させていただきます。
是非、続きのCCDとCMOSの違いについてのお話も
期待しております。

saeko.an 2012年10月03日 22時52分22秒 ( 水 )

光学マニアはフィギュア好きが多い?

返信

はじめまして。当方も写真レンズの薀蓄サイトを開設しているもので、資料集めと自分の文章に間違いが無いか復習のためググっている間に貴サイトにたどり着きました。
とてもわかりやすくて優良なサイトだと感じました。これからちょくちょく見に来ます。
ちなみに私は一応理系とは言え医療職なので幾何光学の知識はシロウトです。ですので自分でも間違っていることを気づかずに偉そうな事書いているかもしれません。ご面倒とは承知の上で、当サイトのご閲覧して頂ければ幸いに存じます。「ここ間違っているよ!」というところがあればぜひご指導の程お願いします。特にズームレンズに関する記述は私も実は全然自信がありません.......

増田光紀 2011年01月06日 20時27分55秒 ( 木 )

Re:サルでもわかって欲しいカメラ原理講座:【コーヒーブレイク】接写するときに便利なレンズアクセサリー

返信

ツイッターでフォローさせて頂いているtwohiroこととーひろと申します。いつもツイート楽しみに読ませて頂いてます。

まだ一眼初心者なので接写=マクロレンズと思い込んでましたが、こんなに色々な方法があるとは思いませんでした。図解で分かり易く非常に参考になりました。

海外の話に興味があるので海外のツイートやレポートは楽しみで読んでいます。また機会がありましたら個人的にお願いしたいです(笑)。

とーひろ 2010年12月09日 21時57分16秒 ( 木 )

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