2010.09.22

サルでもわかってほしいカメラ原理講座第3回。
今回は、レンズの大敵「収差」をとりあげてみます。

サルでもわかって欲しいカメラ原理講座 目次

高いレンズはこの「収差」をうまく処理していますが、はてさて収差とはいったいなんなのでしょうか。

収差とは理想レンズからのズレ

しょっぱなから答えを書いてしまいましたが、そういうことです。
いままでレンズの公式などで書いてきたレンズですが、これは理想的なレンズを前提にしています。技術者が目指す夢のレンズですね。現実のレンズでは像をそのまま「キレイに」像に結ぶというのは、かなり難しい作業です。理想レンズからのズレのことを収差と呼び、レンズ開発の歴史そのものが収差との戦いと言っても過言ではありません。しかしながら、先人の研究・開発のの甲斐あって、現在のレンズは理想レンズに近づいてきています。
レンズの収差は、主に

  • レンズの形状
  • レンズの光学的特性

の2点で決まります。
レンズの光学的特性、とくに屈折率の色分散で決まるものを「色収差」と呼び、それ以外の単色光でも起こるものを単色収差と呼びます。単色収差は発見者であるルートヴィヒ・ザイデル博士の名にちなみ「ザイデルの五収差」とも呼ばれます。
まずは、色収差についてお話します。

色収差とは

色収差とは、先程も書いた通り、屈折率の色分散から引き起こされるものです。
色分散とは、色の波長の長さによって屈折率が変化する現象のことです。つまり、色分散がなければ、この色収差は原理上起こりません。しかし、現実のガラス材料には色分散があるので、この色収差が発生します。
通常のガラスでは、青色の波長(400nm程度)の屈折率は、赤色の波長(700nm程度)の屈折率よりも大きいのです。



上記はホウ珪酸ガラス(ホウ素と珪素が主原料となっているガラス)での屈折率分散のグラフです。青色の方が赤色の屈折率よりも大きくなっていることがわかります。これにより、光の色によって屈折率が変化、つまりトータルのレンズの特性が変化することによって、像がボケてしまうのです。これが色収差といいます。
色収差には「軸上色収差」と「倍率色収差」の2種類があります。

軸上色収差

軸上色収差とは、レンズの近軸上でも起きる収差のことです。
上記の通り、色によって屈折率が異なるため、色によって有効的な焦点距離が異なるために起こる現象です。



青色の方が屈折率が大きいため、レンズの焦点距離が実質短くなり、レンズから近いところに焦点を結びます。一方、赤色に対してはレンズの焦点距離が長く感じるため、レンズから遠いところに焦点を結ぶことになります。結果、色によって焦点位置が変わるため、色がにじむボケがでてくるのです。
これは像面の中心、レンズ軸上でも発生するため、原因がわかりやすい収差の一つでもあります。

倍率色収差

倍率色収差とは、軸上色収差とは異なり、軸上では発生しません。
色によって焦点距離が変わることで、結んだ像の倍率が異なることから発生するボケになります。



つまり、斜めから入った光が色によって屈折率の違うレンズで、違う場所に焦点を結ぶことになります。レンズの焦点距離にも依存する現象で、焦点距離の長いレンズの方が倍率変化が小さいため、倍率色収差が出にくくなります。逆に、広角レンズでは写真の四隅で倍率差が大きくなるため、顕著にでてくる収差です。

これら色収差は、解消することが可能です。
屈折率(色)分散の大きいレンズと小さいレンズを効果的に組み合わせることで可能になります。具体的には、下図のようなアクロマート式レンズ構成にすることで、色収差を補正することができます。


屈折率分散の小さい凸型レンズと屈折率分散の大きい凹型レンズを組み合わせることで、最終的に色収差の小さいレンズにすることが可能です。
昨今の最新レンズでは、異常分散レンズというものを使って構成することにより色分散を劇的に補正しているものもあります。ニコンではEDレンズ、キヤノンでは蛍石レンズというのがそれにあたります。これは、分散が通常のレンズとは逆、つまり青色のほうが屈折率の小さい(赤色の方が屈折率が大きい)という、特殊なガラス材料を用いることで、積極的に色収差補正をおこなっています。一般的に、これらの特殊レンズは高価であるため、高価なレンズにしか使われていないのが現状ですが、そのうち安くなることを願いましょう。

次に、単色収差、いわゆるザイデル5収差について説明します。
これらは主にレンズの形状によって引き起こされるボケで、理論的にはレンズ形状を作り込むことで補正が可能です。5収差ということで、「球面収差」「コマ収差」「非点収差」「像面歪曲」「歪曲収差」の5種類に分類されます。

球面収差

レンズ表面が球面形状であることに起因する収差です。



レンズの外側を通る光とレンズの中心(近軸)付近を通る光で焦点位置が異なるために発生するボケです。軸上でも発生する、つまり写真の中心でもでる収差です。原理的には、レンズの外側とレンズの近軸付近でのレンズ表面の傾きが球面であるときに引き起こされます。レンズ外側を通る光の方がレンズ表面の角度が急であるため屈折角度がきつくなり、レンズの近いところに焦点を結びます。これは、レンズ表面が球面である限り解消することはできません。
逆に、球面収差は適切に設計した非球面レンズを使うことで解消可能となります。ですので、最近のレンズでは非球面レンズが一般的に使われるようになってきています。



レンズ付きフィルムで有名なフジフィルムの「写ルンです」等では、レンズにプラスチック樹脂製の非球面レンズを用いることで、単レンズ構成にもかかわらず球面収差を効果的に補正していることで有名です。

コマ収差

レンズに斜めから入った光が、像面の1点に焦点を結ばないことによるボケです。ボケの形状が、彗星(comet)のように尾を引いた形状となることから「コマ収差」と呼ばれます。



上図のように、軸の外側に尾を引くのを外コマといい、内側に尾を引くものは内コマとよばれます。レンズに斜めから入る光によって引き起こされる収差ですので、口径が大きいレンズほど顕著に現れます。ですので、絞りを絞ることによって、多少の補正が可能な収差です。

非点収差

「点」が「点」として投影されない収差です。



「点」を写すと「点」として写る、「円」を写すと「円」として写るのが理想です。それが、円を写すと「楕円」として写るというのが、非点収差です。点が点として写らない(非点)ため、その名が付いています。これは、縦方向と横方向で焦点距離が違うために引き起こされます。つまり、レンズの3次元形状が「縦」と「横」で違うことにより生じます。つまり、レンズの軸に対して完全軸対称な形状をしていないために起こります。ですので、レンズを完全に軸対称形状に設計・製造することにより回避することができます。

像面歪曲

像を結ぶ面が平面ではなく曲面となる収差です。



例えば、同じ平面にピントをあわせているはずが、中央ではピントがあっている時には四隅のピントが合わず、四隅にピントがあっているときは中央のピントがずれるといった平面上のピントずれが生じます。本来は平面を写した像は平面としてピントが合わなければいけないのですが、湾曲した面に像ができてしまうものです。
レンズカーブ等の設計を適切に行うことにより解消可能です。一般的には非点収差を補正すると像面歪曲も補正されます。

歪曲収差

写真の像がぐんにゃりと曲がります。



真四角のものを写したときに、キレイな四角として写らない現象です。望遠レンズでは主に糸巻き型、広角レンズでは主に樽型の歪みが見られます。ピントとしては全面に合っていますが形状が歪んで写るのが特徴です。
歪曲収差はレンズ群の中で絞りを置く場所によって変化します。同じレンズの間に絞りを挟むことによって、最初のレンズでできた歪曲収差を絞り後のレンズで逆再生することができます。歪曲収差を打ち消し合うことが可能となります。いわゆる対称型レンズと呼ばれるレンズ構成で解消可能です。



また、非球面型レンズにすることによっても解消可能です。

収差のまとめ

  • 色収差は異常分散レンズや分散の違うガラス硝材を組み合わせることで解消可能
  • 球面収差は非球面レンズにより解消可能
  • コマ収差は絞りを絞ることにより解消可能
  • 非点収差、像面歪曲はレンズカーブの設計を適切に行うことで同時に解消可能
  • 歪曲収差は対称型レンズ構成の採用、もしくは非球面レンズの採用により解消可能

ちなみに、デジタル撮影でよくいわれるようになった「パープルフリンジ」。これは実際は収差起因ではないので、また次の機会にでも。
次回は写真のキモ「撮像素子(フィルム・デジタルイメージャ)」についてのお話です。

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